当主
椿
すいば83
「曲水の宴」で有名な城南宮は、平安京遷都に際し都の安泰と国の守護を願い創建された京でも殊に雅で美しいお宮です。平安城の南に鎮まるお宮という意味です。

方除・厄除の神様なので、お祓いを受け「城南宮」の貼札のある車が街中を行き交う。

神苑は、『源氏物語』に描かれた80種あまりの草木が植栽されており、 今年は 例年より2週間も早く150本の枝垂梅が 淡紅色や紅白の花を装い、300本の椿も次々に花開きます。
参道には境内でのみ限定販売の白玉椿に似せた椿餅も出店されていました。

源氏物語のあの話を想い起こす。
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源氏物語 巻三十四 若菜 上

きらきら椿の葉が、ぬれたような光を耀(かがよ)わせていた。
日々をもて余す源氏は六条院に夕霧、柏木たちを蹴鞠に誘った。
身分の高いものが遊ぶ競技でもないので 夕霧と柏木は熱中もできず腰を下ろし、ふと女三宮のほうの御殿を見ると小さく可愛い唐猫が大猫に追われ、繋がれた綱を物にひっかけ御簾(みす)を持ち上げてしまった。
そこには内親王ともあろう方が袿姿(うちぎすがた)で立ったまま男たちの蹴鞠を覗いていらっしゃるのを二人は見てしまった。
柏木は源氏から女三宮を引き受けることができるようにと、未だに独身をとおしている。
蹴鞠の後はいつものように椿餅(つばいもちい)が出た。
(餅米を乾燥させ臼でひいた道明寺粉を甘葛の汁で練って団子にし、椿の葉で包んだもので和菓子の起源と考えられる)
邪悪を去る祈りを持つ椿、その葉で包む椿餅を口にもしない柏木。
だが女三宮が歳に応じた知能の発達がないと説明できない夕霧は、友として心を暗くするばかりであった。
源氏物語 巻三十六 柏木

上図は当社の図案です。
真珠箔を用いて描かれています。
死を直前に迎えた柏木が親友の夕霧に、女三宮との不義を告白しています。
源氏の正妻への恋は恐れを失わせ、源氏の留守に六条院へ忍び込み不義に及ぶ。
柏木は源氏の眼を恐れ、ついに精神的な苦しみによって死ぬ。
枕に寄りかかる柏木の青白い顔は「引目鉤鼻」描法で眼の表情を一本の細長い線の目頭あたりに微かに瞳の点を滴らせ、一見無表情の中に心の中の懊悩(おうのう)が刻まれている。
ぎっしり詰まった美しい桜模様の几帳の奥での儚い柏木の臨終です。
女三宮はたった一度の柏木との不義の子を出産します。その子が薫です。
生まれてきた薫に何の罪もない。
産後、弱り切った女三宮は、密かに訪れた朱雀院に出家を願う。
三月に薫の五十日(いか)の祝いが催され、薫を抱き上げた源氏はその容姿の美しさに柏木の面影を見、さすがに怒りも失せ涙した。
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『源氏物語』の世界を慌ただしく駆け抜ける柏木。
薫という鬱屈した後半の主人公は、
柏木がいなければ誕生しないわけです。
以後の『源氏物語』への影響は絶大で、
薫を生み出すためにのみ登場させた。
そんな気さえしてきます。

白椿を題材にした袋帯。
ぬれたような光を耀わせた葉と椿のボリュームに力点を置いて製作しました。